TOP
2023.12.18

「スーツを着て遊びに行くことがいまは本当に楽しい」

「スーツを着て遊びに行くことがいまは本当に楽しい」
#3 櫻井貴史さん(モデル)
17歳でモデルデビュー。以来25年以上に渡り途切れることなくメンズファッションの最前線に立ってきた櫻井貴史さん。その長いキャリアのなかで今年(2023年)はじめてフォトマガジンを刊行。さらに各種イベントのMCの依頼が急増していて、活動の幅に大きな変化が起きつつあるそう。
実は洋服の青山とは20代前半の頃から広告モデルとして並々ならぬ縁もある。「モデルとして年4回ほどレギュラー出演させていただいていました」という櫻井さんにとってのスーツとは。

おそらく現役日本人モデルのなかではもっとも多くの雑誌の表紙を飾ってきた人気モデルの櫻井さんだが、その理由はスーツからカジュアルまで着こなしてしまうキャラクターの振り幅が広いところ。しかもどんな服を着てもごく自然な空気感を演出できるところに定評がある。交流の幅も広く、各種展示会やイベントに呼ばれることもしばしば。それだけにスーツやジャケットを着る機会は意外に多いのだそう。

「どこに顔を出しても失礼に当たらないし、なによりスイッチが切り替わる感じが心地いいんです。それに最近は、ホテルのラウンジでお酒を飲むようなシチュエーションも作るようにしています。そんなときには間違いなくスーツを着て行きますね」

――そんなお話も含めて櫻井さん流のスーツの付き合い方を伺えたらと思います。

Q1.まず記憶に残る最初のスーツはなんですか?

「グレースーツにウールのハット、それにクラシックな腕時計」

「茨城県の出身なんですが、父親が単身赴任をしていたこともあって、父親のスーツ姿という記憶はないんです。むしろ僕にとってスーツというのは祖父のグレースーツ。本当にどこに行くにもいつもスーツで、それにちゃんとリボンのついたウールハットにクラシックな腕時計をしている人でした」

Q2.ご自身で購入された最初のスーツは?

「ビジネススーツではない精一杯のお洒落用」

「17歳でモデルを始めたんですが、高校在学中ということもあって、最初の頃は茨城の実家から撮影のたびに上京するような生活でした。高校を卒業して東京に出てきたんですが、本格的にモデルとして活動しはじめたのはそのあたりからです。スーツを買ったのはオーディション用でしたね。事務所からも用意しておいてね、なんて言われて。それで買ったのがR.ニューボールドのチャコールグレーのスーツでした。自分にとってはビジネススーツではない精一杯のお洒落用でしたね(笑)」

――モデルとしての背伸びもあった?

「もちろんそうだったと思います。ただ、最初のネクタイはグッチだったんです。18歳のときに健康食品のお仕事ではじめてサイパンに行かせていただいたんですが、せっかく海外に来たんだから、何かお土産を買わなきゃと思って買ったのがそれでした。今考えると、ブランドの存在意味と、誰のために、何のためにスーツを着るのかなんて考えていなかったんですよね。コーディネートの基本もわかっていませんでしたから(笑)」

Q3.現在スーツは何着お持ちですか?

「10着程度だと思います」

「季節によってローテーションしますが、よく着るのはそのなかでも数着程度です。物持ちがいいほうなので、相当昔に買ったのもあると思います。さすがに着られませんけど」

Q4.スーツはいつ着られますか?

「いいレストランやホテルのバーに行く時、とか」

「展示会やイベントなどにお招きいただくときはもちろんですが、最近はあえていいレストランやホテルのバーに遊びに行く機会を増やすようにしていて、そういうときは必ずスーツで行きますね。若い頃にはできなかったし、たぶん似合わなかった遊びです」

「最近は司会をやったり、こうしてインタビューをしていただいたりということも増えてきて、自分自身が洋服を着るのではなくて、そんな洋服を解説したり、言葉で伝えたりという役割が増えてきて、そういう時もやっぱりスーツです」

Q5.仕事とスーツについて

「自分のキャリアをつくってくれたもの」

「まだ20代前半だった2004年に、今は休刊となっている『Gainer』という雑誌にはじめて出させていただきました。その頃はまわりのモデルがみんな年上だったこともあって、雑誌の中でもフレッシャーズというスタンスだったんですが、その頃からスーツを着て撮影に臨む機会がぐっと増えました。大きな変化といえば2006年に『MEN’S CLUB』の表紙を1年以上に渡りやらせてもらったあたりから。それまで“20代の若いモデルのひとり”だった自分が“櫻井貴史”として仕事をいただけるようになったように思います。2019年からあらためて表紙をやらせていただくようになるんですが、見返すとその大半のカットでスーツかジャケットを着ているんですよね。そう考えると僕のキャリアはジャケット&スーツが作ってくれたと言ってもいいかもしれませんね」

Q6.スーツのために大切にしていることは何ですか?

「肩周りと背中周りを集中的に」

「長く仕事を続けてきて思うのは、洋服を格好良く着るためにはやっぱり身体が基本、ということ。どれだけいいスーツを着ていても、身体ができていないと高そうには見えません。逆を返せば、身体ができていればスーツを高く見せることもできるんです。その上でいかにバランスのいい身体をつくるかがポイントです。要はスーツにはスーツが似合う身体があるんです」

――ポイントはどこでしょうか

「もちろん満遍なくバランスよく鍛えますが、特に肩周りと背中周りは集中的にコントロールするようにしています。脚はモモを太くなりすぎないように筋肉をつけてあげること、ですね。実はスーツはなで肩の方が肩のラインが綺麗に見えると思っているんですが、幸い僕はバッグのハンドルが掛からないくらいのなで肩なので、だいぶ得していますね(笑)」

Q7.スーツの変化と自身の変化について

「違和感を感じたら、それは何かのサインだと思っています」

「おそらく数万着のスーツに袖を通してきているので、身体がサイズ感を覚えていてくれます。最近のものはいっ時に比べてハーフサイズ以上大きくなっている感じでしょうか。ジャケットもサイズアップしていますし、パンツはウエスト位置も高く、腰回りにゆとりがあるものが多いですね」

――自分自身の変化に関してはいかがですか

「身体に関しては以前よりしっかり管理しているので、年齢による大きな変化は感じません。ただし、好みは変わってきていますね。もともと派手なものが好きな方ではないんですが、自分なりに厳選したいいものを身につけようと思うようにはなりました。自分自身が着るものはできるだけベーシックなものを選んじゃいますね。デザインの凝ったものやモード色の強いものは仕事でいくらでも着させていただけるので。それでも、以前のものと比べると全体にゆとりのある服が増えてきているので、徐々にアップデートしているところです」

Q8.一番好きなスーツのコーディネートについて教えてください

「ネイビーを活かしたコーディネートがいまの好みです」

「今日のスーツは今年新調したものなんですが、写真では写らないほどの細いネイビーのストライプが入っているんです。それに合わせて、インナーのニットは黒に近いネイビー、時計の文字盤もネイビー、シューズもネイビーを入れています。ブラウン×ネイビーのコーディネートなんて若い頃は思いもつきませんでしたが、ブラックとネイビー、ブラウンとネイビーなど、とにかく最近のお気に入りです」

Q9.櫻井さんにとってスーツとはなんですか?

「自分らしくいられる服ですね」

「スーツって、堅苦しいものとか、働く時に着るものとか、そう捉えられがちですが、僕はむしろ、一番僕らしくいられる服だと思っています。着ていて一番安心する服、というか。だって誰から見てもきちんとして見えて、自分自身も安心していられる服なんてないですから」

Q+1

「スーツは経験値が出る洋服だと思います」

「スーツってなぜか若い頃よりも、ある程度年齢を重ねてからの方が似合うと思うんです。それはスーツの“捌き方”ができているかどうかの差ではないかな、と。例えば立っている時と座っている時でボタンを留めるか留めないか。ジャケットを脱いだ時にどう持つか。ポケットに手を入れる時はどうするか。さらにはシャツのサイズ、ネクタイの結び方に緩め方、靴を含めたアイテムの手入れなど、スーツはその捌き方やサイジング、メンテナンスに経験値が表れる服だと思っています。もし僕が誌面で自然にスーツを着こなしているように見えるなら、それはなるべくふだんからスーツに接しているからだと思います」

今回の撮影はすべて自前のアイテムで登場していただいたが、その隙のない着こなしはまるで誌面さながらのスタイリッシュさ。スーツを仕事着ではなくお洒落着として楽しんでいるのがよくわかる。今後、雑誌で、イベントの司会やテレビで、櫻井さんを見かけた時にはぜひ洋服の“捌き方”にも注目していただきたい。

写真:高柳健 編集・文:前田陽一郎

あなたにオススメ

失敗したら落ち込むけど「できるって信じたらできるやん!」の気持ちが常にある
失敗したら落ち込むけど「できるって信じたらできるやん!」の気持ちが常にある
#1 ゆりやんレトリィバァさん(芸人) お笑い芸人としてはもちろん、女優、ラッパー、さらにはファッションブランドとのコラボレーションなど多方面で活躍するゆりやんレトリィバァさん。思うがままに自分を表現する彼女に、これまでのキャリアやファッションについて、さらにはその裏側にある思いを語ってもらいました。
「スーツをきちんと着ることは、ビジネスの重要なスキルです」
「スーツをきちんと着ることは、ビジネスの重要なスキルです」
#2 森岡弘さん(スタイリスト) 株)婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社、メンズクラブ編集部でファッションディレクターとしてスーツほかメンズファッションの基本を徹底的に磨いた森岡さん。じつは野球ひと筋の学生時代を過ごし、身体を壊してからは自身の経験をもとに、就職はせず鍼灸師になろうとしていたそう。とはいえ、ロジカルなファッション考によるスタイリングは清潔感と安心感に溢れ、政治家やスポーツ選手などから支持され、数々のスタイリングサポートを手掛ける。そんな森岡さんにとっての「スーツ」を伺った。