自信が自然に湧き上がる、自分が一番輝ける姿をイメージすること
2012年ロンドンオリンピックに兄弟とともに出場。ダイナミックで美しい体操で注目を集めた田中理恵さん。2010年の世界体操競技選手権大会では、大会で最も美しい演技に贈られる「ロンジン・エレガンス賞」を日本人女子で初めて受賞。2013年に現役を引退してからは2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事を務めるなど、体操競技を裏で支える役割に。兄弟と設立した体操クラブの運営にも携わりながら、YouTubeでは自宅でできるストレッチの方法を配信しています。そんな田中さんは、これまでの、そしてこれからのキャリアをどう考えているのか。また、あまり語ってこなかったファッションについてもお伺いしました。
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「引退してからは身体を動かすことの大切さや楽しさを、特に子どもたちに伝えることを目標に活動しています」と語る田中理恵さん。明るい声は、聞いているだけで元気になるようで、田中さんのパワーを感じます。体操競技の第一線を退いてからは、選手を支える環境づくりにも力を入れている田中さんが語る、キャリアとファッションの話とは?
Q1. 最近取り組まれていることを教えてください。
「身体づくりを頑張っていました」
出産して1年経つんですが、仕事に復帰するために身体を元に戻していました。筋力を戻すことが一番大変でしたね。体操教室ではお手本を見せないといけないし、みっともない動きはできないじゃないですか。それに体重を落としながら母乳を出すために食事もしっかり摂らないといけないことも難しかったです。
悩んでる人が多いんですよね。産後痩せないとかお腹が引き締まらないとか。食事を抜いて動いたら身体と心のバランスが崩れたとか。少しでもみなさんが毎日をハッピーに過ごせるように、自分なりの実践が少しでも参考になればと、自分の体験をYouTubeでお話したりもしました。
Q2. 普段、スーツを着る機会はありますか?
「気持ちをビシッと引き締めたいときに着ます」
日本体操協会の理事を努めているので、その会議があるときにはスーツですね。気持ちをビシッと引き締めるスイッチになります。あとは小学校1年生の娘の学校行事とかでも、たまにスーツで行きますね。
着るのはパンツスーツです。スカートも素敵なんですけど、パンツスーツにヒールを履いて街を歩いている女性がすごくかっこいいなと思って。
かっこいい歩き方のコツ、ですか?それは体操の経験が役に立つんですけど、常に平均台に乗っているイメージを持つといいと思います。足もすっと前に出ますし、姿勢も良くなります。ある日友達との待ち合わせに、スーツでスイスイ歩いて行ったら、いつもの私と違いすぎて気づいてもらえなかったことがありました(笑)。
Q3. 仕事をする時の洋服で意識していることを教えてください。
「なるべく華やかな、明るい色を選んでいます」
テレビに出させていただくときには、できるだけ華やかな色とか明るい色を選ぶようにしています。画面で映えるように。自分が普段着る服は黒、白、茶、の3色しかないんですけど(笑)。それに現役のときってジャージとレオタードしか着ていませんでしたし。なので引退してからいろいろな服を着るようになって、意外と自分にはこんな色が似合うんだなとか、こんな服が好きかもって発見しています。
Q4. ご自身の仕事の中で大きな転換となった「アクション」を教えてください。
「選手を支える側にまわったことです」
2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会に向けて、自分が選手から支える側にまわったことが大きな転機でした。選手のころは自分が良い演技をすることだけに集中していたのでわかりませんでしたが、支える側から選手を見ると、実は選手のためにたくさんの支える人がいて、大会を運営する人やボランティアの方々がいる。
いろいろなことを選手のために考えてくれる人が、こんなにたくさんいるんだということを知ってから、スポーツに対する考え方やアスリートに対する考え方が変わりました。私自身もそのなかで、選手が輝ける環境を全力で作ってあげたいと心の底から思いましたし、その一方でボランティアの方々に対しての感謝の気持ちが強くなりました。
Q5. 現役引退以降、公私にわたりファッションはどのように変わりましたか?また、ファッションが変わったことで仕事や考え方に変化が現れた経験があれば教えてください。
「ジャージ以外の服を着るようになりました」
現役の頃は日本体育大学の学生で、もうジャージばっかり着ていたんですよ。ファッションよりも体操だったので。
でもいまは、今日着ているようなお洋服を来て外出するときに、ひとりの社会に出る女性としてのスイッチが入りますし、ひとりのお母さんであるということも感じるんですよ。着るものひとつで気持ちが変わるって面白いですよね。
自宅から体操教室に行くときにはジャージなんです。で、そのときってやっぱりまた気持ちが変わってアスリートの自分に戻るんですよね。これが本当の田中理恵の姿だって思うんです。ファッションがテーマのお話でこういうことを言うのもどうかな、って思うんですが、やっぱりジャージを着ているときの自分が、自分らしくて好きです。
Q6. オフタイムでの好きなコーディネートを教えてください。
「娘とおそろいのかわいい部屋着にハマってます」
最近は娘とふたりでいろいろな部屋着を着ることにハマってるんです。かわいいルームウェアがいっぱいあるじゃないですか。それを選んで、娘とおそろいにしたり。去年からはそこにひとり増えて、息子の服も買うようになりました。
Q7. これからチャレンジしてみたい新しい仕事があれば教えてください。
「変わらず、体操選手の田中理恵でいたいです」
体操選手の田中理恵として、『体操やスポーツをしたいと思ってくれる子どもたちを増やしたい』これが一番自分が強く持っている想いです。そこからお父さん、お母さんも身体を動かすようになったらいいなって。体操教室から帰ってきた子どもと一緒にストレッチするとか。身体を動かすことを通じて、明るい家庭が増えたらいいなって思うんですよね。
Q8. 今後、ファッションで挑戦したいことを教えてください。
「子どもとの外遊びで着る服です」
子どもと公園で遊ぶことが増えたんです。娘は小学生になって、息子も生まれたので、きっとこれから外で遊ぶ機会も増えるんだろうなって。汚れてもよくて、動きやすい服装、それでいてラフになりすぎないファッションってどういうものがいいのかなって考えているところです。
Q9.「キャリア」と「ファッション」で大切にしていることを教えてください。
「自分が一番輝いている姿をイメージすることです」
社会のなかで自分がなにかの役割を果たすときには、そのときの自分らしさについて知っていることがすごく大事だと思います。その役割のなかで自分が一番輝いているときってどういうときなんだろうってイメージすることがすごく大事だと思うんですよね。
スーツを着るってやっぱり気持ちが引き締まるし、スーツが自分に力を与えてくれるところってあると思うんです。でも私の場合は、それがジャージなんですよね。アスリートのスイッチが入ったときの自分が一番自分らしさを持てて、エネルギーが出る。そういうことって人それぞれあると思うんですけど、それを見つけることが大事だと思います。
Q+1. これから体操についてどういう発信をしていきたいですか。
「体操でみなさんの悩みを解決していきたい」
自宅でお腹周りを引き締めるストレッチとか、なにかしながらでもできるストレッチとか、スタッフと力をあわせてYouTubeで発信しているんです。この「田中理恵 Riefit」で実践的なことをもっと伝えていきたいなって思っています。コメントで質問をたくさんいただくですけど、みなさんここが辛いとかうまく引き締まらないとか、すごくお悩みがあって。そんな方々を少しでも楽しく、楽にさせてあげたいなと思っています。
YouTubeでの発信だけでなく、スポーツイベントには積極的に参加して体操の魅力を語っていきたいと熱く語る田中さん。その原動力は、できなかった鉄棒の逆上がりができるようになった瞬間の子どもの笑顔。「この笑顔をめっちゃ増やしたい!って気持ちが熱くなるんです」。情熱的に体操の普及に努める田中さんは、日本を明るく、元気にしているひとりだ。
編集・文:青山鼓 写真:高柳健