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2024.05.27

牡蠣の貝殻がスーツの材料に?サステナブル素材「SEA WOOL」が見せる未来とは

牡蠣の貝殻がスーツの材料に?サステナブル素材「SEA WOOL」が見せる未来とは
青山商事およびそのグループ、協力会社のESG・サステナブルな取り組みを発信するオウンドメディア「AOYAMACTION」。この企画では、青山商事が日々公開しているプレスリリースの中から、ESG・サステナブルに関わるものをピックアップ。プレスリリースでは書ききれない深いところを担当者に伺います。

第一回の今回は、青山商事が3月に発売した「SEA WOOL(シーウール)」のスーツに着目。商品部 レディス商品企画グループの髙井さやさんにインタビューし、サステナブル素材「SEA WOOL」について、そして青山商事が目指す先を伺いました。

捨てられるはずの牡蠣の貝殻がスーツに変身!「SEA WOOL」素材を使用したサステナブルなスーツを3月14日に発売 | 青山商事株式会社のプレスリリース

青山商事株式会社のプレスリリース(2024年3月14日 11時00分)捨てられるはずの牡蠣の貝殻がスーツに変身!「SEA WOOL」素材を使用したサステナブルなスーツを3月14日に発売

「SEA WOOL」を使用したサステナブルなスーツを発売

2024年3月14日(木)、青山商事は「SEA WOOL」を使用したスーツを発売しました。「SEA WOOL」は、本来捨てられるはずの牡蠣の貝殻を使ったサステナブル素材。牡蠣の貝殻とペットボトルをリサイクルしたポリエステル繊維からできた環境に優しい素材で、ウールのような手触りが特徴です。

牡蠣は中国を始めとするアジアや世界各国で愛されている食材ですが、その大半は貝殻で大量廃棄が世界的な問題になっています。日本における牡蠣の年間生産量は20万トン、それに対する貝殻の排出量は15 万トンに達する(※)とのこと。また、千葉県市川市では貝殻の大量投棄が問題視されていて、江戸川放水路において牡蠣の貝殻などの投棄を禁止する条例が制定されました。

そのような現状を打破するため、石灰肥料へのリサイクルやインテリア、アクセサリーへの活用など、牡蠣の貝殻の再利用が進んでいます。そんな中、青山商事はアパレル業界のサステナブル推進のために「SEA WOOL」を使用したスーツの発売に至りました。

※参照:近畿大学学術情報リポジトリ「かき殻を原料に用いた硬化体の作成とその特性」

「SEA WOOL」は新世代の機能性ファブリック

青山商事が採用した「SEA WOOL」は、調味料や冷凍食品に加工される台湾産牡蠣を使用しています。特殊技術によってナノサイズの粒子にした貝殻を、リサイクルしたペットボトルからつくられた糸に付着させることで、ウールの毛羽のような形状と、なめらかな手触りを実現させた機能性ファブリックです。ウールと混紡することで、ストレッチ、UVカット、防臭、防シワ、ウォッシャブルなどの機能も付与され、風合い・機能ともに優れた素材になります。

青山商事が「SEA WOOL」を使った商品開発の第一弾として展開したのが、レディース向けのテーラードジャケット・テーパードパンツ・フレアスカートの3つです。他にもサステナブル素材がある中、なぜ“牡蠣の貝殻”に着目しレディース向けスーツの開発に至ったのか、こだわりや難しかった部分など、開発秘話を商品部 レディス商品企画グループの髙井さやさんに伺いました。

PROFILEプロフィール

髙井さや(たかいさや)

バイヤー髙井さや(たかいさや)

商品部 レディス商品企画グループ所属

どのような経緯で「SEA WOOL」に着目したのですか?

アパレル業界が抱える環境負荷の問題に対する一手

「環境省からも指摘があるように、アパレル業界の環境負荷の大きさは問題になっています。今までの当社のレディース商品では、表地にサステナブル素材を使用したスーツはあまりありませんでした。今回、サステナブルに特化したスーツをつくりたいと考え、この素材の採用に至りました」

――「SEA WOOL」以外の選択肢もあったのでしょうか?

「メーカーからは、いくつかのサステナブル素材を提案されました。その中で貝殻は消臭や防カビといった効果が知られています。各種バイオマス製品は流通していますが、洋服に使用される機会は少ないため、貝殻という身近さとサステナブルな観点からSEA WOOLを採用しました」

――採用後に気づいた「SEA WOOL」の魅力を教えてください。

「ナノサイズの粒子がポリエステル繊維に付着することでウールのような柔らかさと手触りを実現できるのは、SEA WOOLの特色です。市場に出ているスーツでウールを使ったものは減ってきています。ウール素材を使いにくい中、ウールのような風合いを出せるSEA WOOLは貴重な存在だと思います」

「SEA WOOL」を使った商品開発の中で苦労したポイントはありますか?

サステナブルなスーツづくりに妥協しない

「SEA WOOLを使ったスーツの第一弾では、ネイビーの無地とチェック、ライトグレーの3色を展開しています。牡蠣の貝殻を粉にして付着させる中で、カルシウムが熱を加えることで反応するため、ニュアンスカラーを出すのが難しかったですね。特にグレーなど、理想の色合いを出すのが難しいカラーは確認工程を増やしながら進行しました」

――その他にも難しかった部分はありましたか?

「SEA WOOLを初めて採用したので、表地の再現性に苦労しました。例えば、縫い目が目立って仕立て映えしなかったら、いくら良い素材を使ったスーツであってもお客さまには手に取ってもらえません。スケジュールと睨めっこしつつ、サンプルや着用感を確かめながら理想のスーツを追い求めました」

「SEA WOOL」以外でこだわったポイントを教えてください。

表地から裏地まですべてをサステナブル素材に

「裏地やボタンにサステナブル素材を採用しています。当社では「WEAR SHiFT」の取り組みを進めていますが、回収して全部を製品としてリサイクルするのは難しい部分がありました。今回のSEA WOOLを使ったスーツ開発では、裏地を始めとする付属類についてもサステナブルを謳えるようにこだわっています。

服を変える服 WEAR SHiFT

終わらない服をつくろう。AOYAMAは、下取りして終わりじゃなく、誰かに委ねて終わりでもなく、自分たちの目で最後まで見届けるリサイクルを始めます。

商品開発にあたって、重視されたポイントを教えてください。

お客さまに喜んでもらえるスーツをつくる

「SEA WOOLを使ったスーツに限らず、レディースの商品開発ではストレッチ、ウォッシャブルは当たり前の機能です。そこにSEA WOOLの“サステナブル”以外に何をプラスできるのか、お客さまに喜んでもらえるポイントをつくりたいと考えました」

「意識したのは、開発側とお客さまで求めるものが乖離しないことです。ジャケットの丈感を調整したり、ヒップ部分にパワーネットを使用することでヒップラインをカバーしたりと、お客さまや店舗からの声を反映した上で開発を進めました」

――お客さまと環境省からの要望に応えるにはどうすべきと考えますか?

「お客さまが求めているものは軽量や速乾などの機能面なのに対し、国から業界に求められているのは環境負荷の軽減やアップサイクルの促進といった社会的問題です。一見すると両立が難しいように思えるかもしれませんが、機能面を付与しつつ生地にはサステナブル素材を使用すれば、双方の求めるスーツ開発は可能だと考えています」

今回、「SEA WOOL」を使用したスーツがレディース商品になったのは、素材の特色と関係はありますか?

スーツを着るすべての女性に喜んでもらいたい

「SEA WOOLはウールのような柔らかい風合いになるので、レディーススーツのフレアシルエットや、ジャケットの曲線を出すのにマッチしやすいためです。ポリエステル70%混を感じさせないウールらしさを出せたのは予想以上でした」

――「SEA WOOL」を使ったスーツのターゲット層を教えてください。

「シルエットのターゲットは、20代~40代の働く女性です。ここ数年、サステナブルやSDGsの認知度が高まっています。エコに興味はあるけれど、どんな商品を選べば良いのか分からないと悩む、感度の高い女性に興味を持ってもらえると嬉しいです」

今後「SEA WOOL」を使用したさらなる商品開発は企画されていますか?

アイテムの拡充と季節感のある商品づくりを目指す

「SEA WOOLはドレープのあるシルエットも出せます。現時点で展開しているのはテーラードジャケット、テーパードパンツ、タイトスカート、フレアスカートですが、ストレートやワイドなど、別のシルエットのアイテムも展開できそうです」

――季節商品の開発は考えていますか?

「SEA WOOL素材を使ったスーツの第二弾として、裏地のない軽量なジャケットや風通しの良いアイテムなど、夏企画の商品を発売中です。秋冬向けとしては、ダブルスーツや起毛感のあるスーツなどを展開していきたいと考えています」

「SEA WOOLの持つ基本的な機能はそのままに、夏や秋冬など時季に合った機能をプラスアルファした商品を開発していきたいですね」

次世代のサステナブル素材や商品開発など、今後の展望を教えてください。

サステナブルな商品開発は始まったばかり

「サステナブルやエコの流れが消えることはないと考えているので、引き続き良い素材を探していきたいです。サステナブルやエコに対する関心が高いZ世代にも響くキャッチーなアイテムや、SEA WOOLのような風合いの良い素材の開発・採用を進めていきたいと考えています」

――現在、他に注目している素材・生地はありますか?

「食用ではないトウモロコシを使ったSorona®(ソロナ)という生地を試しています。ソロナはポリエステルをつくるよりもCO2の排出を少なくできてエコ、かつ植物由来なので肌への刺激も少ないといわれている生地です」

参照:Sorona® Eco-efficient Performance Fiber

業界を牽引するサステナブルな存在であるために

「終わらない服」を掲げ、着なくなった服のリサイクルを進める青山商事。その再利用率は99%を誇ります。本来は捨てられるはずの貝殻を利用した「SEA WOOL」で、働く人にとって身近なスーツを開発したもその取り組みの一環です。

髙井さんは今回のインタビュー中に「SEA WOOLなどの素材だけではなく、コスパやタイパが良い服、そして長く着られる服という観点からも、サステナブルな取り組みを進めていきたいと考えています」とも語ってくれました。

環境負荷の大きさが問題になっているアパレル業界を変える存在として、青山商事は今後も新たな商品開発や取り組みを見せてくれることでしょう。そして、私たち一人ひとりがサステナブルな行動を意識することも欠かせません。

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