サステナビリティ推進グループがつくる、未来の青山
もちろん、中期経営計画の柱のひとつとして「サステナビリティへの取組み」を掲げる青山商事もESG活動には力を入れている。その重要な部分を担うのが、広報部のサステナビリティ推進グループ。2022年に青山商事初の「ESG DATA BOOK2022」を取りまとめた長谷部道丈広報部長に、この取り組みの意味、そしてそもそもなぜ広報部がこの作業を行ったのか? といった背景を伺った。
良い取り組みを、もっと多くの人に伝えるための挑戦
「何から手をつけていいのかさえわからなかった」状態から、「ESG DATA BOOK2022」をほぼ一人で完成させた
1998年に青山商事に入社した長谷部広報部長。洋服の青山・THE SUIT COMPANYでの店舗経験を経て、本社では人材開発部で採用に携わり、法人部で法人営業を経験したのち、2018年12月から広報部へ。広報部に配属になった当初から、長谷部広報部長は点を線に、線を面にする道を模索していたという。
「わたしが異動になった時点ですでに青山商事は環境や社会に良い取り組みをしていました。例えば1998年からは下取りサービスを通じてリサイクル活動を行い、コーポレートサイトでもESGの取り組みを2018年度当初より開示をしていました。ただ、それら活動には連動性がなく、ひとつひとつをつなげて外に発信することができていませんでした」
そこで長谷部広報部長はまず、消費者からの認知度が最も高い環境ラベルである、公益財団法人 日本環境協会が実施する環境に配慮した活動をしているお店を認定する「エコマーク小売店舗認定」に着目し取得。さらに、表彰制度である「エコマークアワード」へ応募することに。結果は初参加である2020年エコマークアワードにおいて「優秀賞」と「エコ・オブ・ザ・イヤー」をアワード創設以来、初めてのダブル受賞。「良い取り組みをしている」ことが客観的にも証明された瞬間だった。
これまでもすでに環境問題に取り組んでいた青山商事。「それは企業価値に直結する」と各種認証獲得にも奔走したそう
「国の外郭団体によるエコマークアワードでは厳密な審査が行われます。われわれもエネルギー、廃棄物、商品、物流など幅広い分野にわたり資料を用意し、民間団体による認定とは違う厳しい審査に臨みました。ダブル受賞という結果は、社内への発信という点でも、環境に配慮した企業活動が、単なる販促に留まらず、企業のブランディングや信用に繋がるものであるということを理解してもらう効果がありました」
ひとりで丁寧なヒアリングと対話を重ねてできた、68ページの「結晶」
長谷部広報部長は、青山商事の広報活動を統括するかたわら、2021年からひとりで取り組んでいたことがあった。それが2022年に発表した「ESG DATA BOOK 2022」だ。
関連部署の部長クラス、実務担当者に面談の時間をもらい、ヒアリングを重ねた。ただ聞くだけではなくESGとは何か、なぜ青山商事に必要なのかということを説き、多忙な社員にとって負担になるデータをまとめる作業への理解を得ることにも努めた。ESG DATA BOOK(以下、ESGデータブック)はPDFで誰でも読めるので、未読の方はぜひ目を通していただきたい。
ESG DATA BOOK 2023
インタビューは、講演や社内外向けに作成された資料を元に。常に理路整然とした口調で、自身の思いと社業発展の可能性を語っていただいた
「たいへんでしたね、ひとりですから(笑)。しかも自分自身になんの予備知識もありませんでしたから、社外勉強会や各種セミナーに参加して知識を蓄えながらの作業でした」
ESGに関連するデータをまとめることのメリットは、一言でいうと“会社のいいところを一番わかりやすくまとめた本ができる”ことだと長谷部広報部長は言う。
「一部の方には嫌がられた部分もありましたけどね。事実をまとめるだけではなく出したくない事実も出さなくてはなりませんから。でも“出さないと評価は0点ですよ”と均等に伝えました。“これがESGの常識。開示していないことは取り組んでいないことにされてしまう。プライム上場企業というものは、そういうことをやっていかないと評価されないんです”と説得もしました」
株主や投資家、ステークホルダーにコミットする経営層が自社を語る時、またはかつて長谷部広報部長が在籍した法人部の担当者が取引にあたるとき、あるいは、採用活動。それぞれのシーンでESGデータブックは非財務面における青山商事の実態をつまびらかに語るコミュニケーションツールになった。
青山商事が投資を行うに値する企業であるかどうか、ESGデータブックを見れば非財務部門において説得力のある数字を示すことができる。また法人部ではいまやESGでどのような取り組みをしているか提出を求められ、ESG活動をしてない企業は入札に参加させてもらえないこともある。採用にあたっても、得てして聞きにくい福利厚生や報酬、離職状況といったものを正しく開示することができる。
少数精鋭・サステナビリティ推進グループとは
2023年9月に立ち上がった、長谷部広報部長が統括するサステナビリティ推進グループは、広報部内2名のグループだ。そこではこのESGデータブックの作成・更新だけでなく、サステナビリティにまつわる青山商事の活動を社内外に発信する役割を担う。いわば、青山商事のサステナビリティの「点」を探すチームだ。
「私だけでなくグループのメンバーは社外セミナーに参加したり、“サステナ経営検定”の資格取得に取り組んだり、自己啓発をしています。それはプライム上場企業に求められるサステナビリティ情報開示基準に精通し、国内外でのトレンドを把握していく必要がありますから」
社内全体には社内報などを使って伝えていくことも重要だと長谷部広報部長は話す。プレスリリースを出すときには「だれでもわかる言葉で」が基本だ。青山商事のサステナビリティへの取り組みと、それが社会にどのような貢献になるのかを噛み砕いて伝えるためにも、サステナビリティ推進グループのメンバーは広範囲な知識を獲得する自己啓発力が必須のものとして求められている。
サステナビリティは社会全体の最重要項目であり、細目は多岐にわたる上に日々めまぐるしく更新されている。海洋プラスチック問題、生物多様性、廃棄物や人権、人的資本経営や労働安全衛生など、どれも非常に深い知識が必要とされる。そんな世界の潮流と青山商事の接点を見つけていくことも、サステナビリティ推進グループの重要なタスクだ。
企業価値を高めるため、今後目指すもの
2023年に子育てサポート企業の証である「くるみん認定(※1)」から、より高い基準での取り組みが評価され、プラチナくるみん認定(※2)を取得した。今後はえるぼし(3段階目)認定(※3)を目指したいと長谷部広報部長はいう。また2023年11月にスタートしたWEAR SHiFTはさらにドライブさせるべく、環境省が主催するグッドライフアワードへの応募も考えているという。
「WEAR SHiFTが良い取り組みであることは間違いないのですが、この取り組みを続けるためのアップデートも必要だと考えています。あらためて社会にフォーカスしてもらうため、エコマークアワードにてダブル受賞をしたときのような流れを作れたらいいなと思っています」
広報活動は、これから起こる、あるいは起こった出来事についてプレスリリースを出せばいいというものではない。社内の良い取り組みを発掘し、または起きている良い取り組みをさらにドライブさせるべく、行動を起こしていくのが長谷部広報部長のやり方だ。
「WEAR SHiFTは実行タームに入ったばかり。まず認知度を上げながら、回収量を増やさないと」と、多忙な中、あらゆる施策を気にかけている
「プライム上場企業として、またスーツ業界のトップ企業として、「ESG DATA BOOK 2022」は当然必要なものでしたが、製作するうえでは青山商事が取り組めていない課題も明らかになってしまうので、形にできるのか不安もありました。しかし、業界のリーディングカンパニーなら、開示しなければならないもの。青山商事として非財務情報の充実を図り、企業価値の向上を求めて今後も取り組んでいきます」
構成:前田陽一郎 文:青山鼓 写真:高柳健
※1
くるみん認定/次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業が申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けることができる。(厚生労働省ホームページより)
※2
プラチナくるみん認定/平成27年4月1日より、くるみん認定を既に受け、相当程度両立支援の制度の導入や利用が進み、高い水準の取組を行っている企業を評価しつつ、継続的な取組を促進するために新たに設置。プラチナくるみん認定を受けた企業は、「プラチナくるみんマーク」を広告等に表示し、高い水準の取組を行っている企業であることをアピールできる。(厚生労働省ホームページより)
※3
えるぼし認定/行動計画の策定・届出を行った事業主のうち、女性の活躍推進に関する取組の実施状況が優良である等の一定の要件を満たした場合に認定します。認定の段階は、「女性の職業生活における活躍の状況に関する実績に係る基準」を満たした数に応じて3段階あります。(厚生労働省ホームページより)