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2024.04.30

ファッションに真の循環をもたらす国内随一の企業

ファッションに真の循環をもたらす国内随一の企業
環境問題や新しい働き方など、激変するマーケットと社会課題に対して青山商事のサステナブルな取り組み、ビジネスウェアの多様化への対応などを、社内外からの視点で見聞していく企画「青山商事のサステナブル」。今回訪問したのは「サーキュラーエコノミーの実現」を旗頭に、着る人にも地球にも優しい商品作りをされている株式会社エコログ・リサイクリング・ジャパン。『WEAR SHiFT』プロジェクトをはじめ、その他のアイテムでも深く関わっていただいている同社がもつ日本で唯一とも言える技術の話、青山商事と描く未来についてなど伺った。

エコログ・リサイクリング・ジャパンは端的に言えばマテリアルリサイクルの会社だ。マテリアルリサイクルとは廃棄物を原料に、それを再資源化するリサイクル方法を指す。同社は主に回収された衣料を原料として再資源化、再商品化するマテリアルリサイクルに取り組む。創業は1994年。世界でも初となる二酸化炭素の排出制限を主軸に据えた環境問題に対する国際約束の京都議定書が交わされる3年前のことだ。国内ではまだグローバリゼーションの波とともに、世界を相手に輸出業は好調で、大量生産による大量消費に続く大量廃棄という事実に疑問を抱く声は少数だったという。

ポリステル製のボトル(奥)から手前のペレットに。それを原料として中央の鉢へと生まれ変わる

ポリエステルはリサイクルに適した、理想の素材

エコログ・リサイクリング・ジャパンが主軸に据えているのがポリエステルだが、マテリアルリサイクルを考えた際、なぜポリエステルなのか。それにはいくつかの答えがあるようだが、エコログ・ループという資源循環にもっとも適した材料であるということがそのひとつ。同社のホームページによると、「羊毛や木綿に代表される天然素材に比べて、リサイクルする際の技術的な困難やエネルギーの損失が非常に少ない素材」としている。また、衣料素材の合成繊維の中でもっとも普及しているのがポリエステルであることもその理由。さらに、官民あげての研究への後押しもあったそう。

今回の取材にご対応いただいたエコログ・リサイクリング・ジャパン代表の和田顕男社長によると「1980年代の半ばに東レをはじめとした繊維商社によって新合繊(機能ポリエステル)が開発されると、それまでコットンやナイロン、もしくはその合繊を使用した男性用コートは瞬く間にポリエステルに置き換えられていきました。いまではポリエステルは衣料製造に欠かせないものとして、もっとも広く使われている素材です」とのこと。

同社が謳うように、「ファッション産業は世界2位の環境汚染要因産業」であり、「そんなファッション産業を、大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としたリニア(直線)型の経済システムから脱却し、調達や製品設計の段階から資源の回収や再利用を前提とした、サーキュラー(循環)型の経済システムへとシフトさせる」ことを目的とした際に、もっとも可能性を秘めているのがポリエステルだったというわけだ。

製造者責任を問われる時代はきっと来る!

ところで同社は1957年創業のアパレルメーカーである株式会社ワッツを母体としており、前述の和田社長の父である和田敏男社長時によって設立された。きっかけは1992年に行なわれた社内調査。それは自社の製造商品が販売後にどう使用され、処理されているのかに関する調査だった。結果、「自分たちが製造した商品」はその大半がタンス在庫もしくは廃棄されているという現実を知る。これを機に「製造者責任を問われる時代はきっと来る!」という強い意志が先代和田社長に目覚めることになる。とはいえ、時代は消費の先を考えるような“使命”も、それがビジネスとして成立するという先見の明すら受け入れる状況ではなかった。社内でアイデアを募集するも未来を見通すようなアイデアは出るわけもなく、多くは「社長の言っている意味がよくわからなかった」ようだ。

「転機は1993年のドイツ視察でした。技術や市場視察で毎年ヨーロッパには訪れていたんですが、環境先進国ドイツに衣類をリサイクルしている企業があると聞き、訪問したんです。日本ではまだケミカルリサイクルがようやく広がりを見せ始めた頃で、マテリアルリサイクルという言葉自体も認知されていない頃。技術はもちろん、“自分たちが作ったものは自分たちで処理する”という思想にも学ぶべきものは多かったですね」

翌年の94年にはドイツで「ECOLOG RECYCLING GmbH」が設立。そのアジア圏パートナーとしてファウデー社と業務提携を交わし、エコログ・リサイクリング・ジャパン社が設立されることになる。

それでもビジネスにならない現実、支えてくれた仲間

先代和田社長の強力なリーダーシップで立ち上がったエコログ・リサイクリング・ジャパンだが、会社設立までは母体となるワッツ社内でもこのプロジェクトは極秘とされ、幹部の数人のみが知る事業だったそう。

「それほどに理解し難い投資だったんでしょうね。まだわたし自身も入社前の出来事だったのですが、現在も活躍いただいている役員からその頃の状況を聞かされます」と和田社長。

(左)環境先進国ドイツには何度も足を運び学んだという(右)リサイクル事業の認知のために積極的に工場見学なども開催(コロナ禍以降中断中)

事実、すぐに案件依頼が入るわけではなかった。むしろ同社の設立は、エコログ事業への不退転の決意を内外にも示し、協力者を募る足がかりにすることが目的だったのではないかと推察される。状況がさらに動き出したのは1997年の京都議定書の締結だった。にわかに“脱炭素社会の実現”という言葉が一般化し、国も企業も目標数値が明確にされた。

「そんななか大手総合商社、大手繊維会社などから協力を取り付けられたのは大きかったですね」

会社設立から5年後の1999年、実験プラントが稼働すると、2000年にはセブンイレブン・ジャパンの店頭ユニフォームに採用されるなど、社会意識の変化とともに光明も見え始めた。2003年あたりからポリエステルのペレタイズ(ペレットと呼ばれる小さな粒状の原料状態に戻すこと)が実用化されるようになる頃にはファスナーやボタン、不織布芯地、織物芯地などの資材メーカーの開発協力も得られるように。ただボトルネックになったのはそれら資材を活用して衣類などの商品として世に送り出すモノ作りメーカーの不在だった。モノ作りメーカーの不在に加え、2004年にはエコログ事業の最大の求心力だった創業者和田社長の急逝など、エコログ・リサイクリング・ジャパンの事業はそれこそピンチの連続だったようだ。和田社長が急逝されると、利益を出せない事業の存続を危ぶむ声があちらこちらから噴出したが、それでも最初に協力を申し出てくれた大手企業に支えられて事業を続けてきたと言う。

エコログ・リサイクリング・ジャパン社内に設けられたラボ。こちらではポリエステル以外のリサイクルの可能性実験が現在も行われている

回収、分別されたポリエステル混紡の衣料

この巨大なランドリーで酵素により混紡素材を溶解、ポリエステルだけを取り出す

創業時から今へと続く青山商事との関係

「青山商事さんとのお付き合いは、双方の創業時まで遡ります」

和田社長の言葉通りに、母体となるワッツ創業のすぐ後の創業となる青山商事との関係は、男性用ビジネスコートやジャケットの製造に始まり、長い歴史をもつ。エコログ・リサイクリング・ジャパンとしての取り組みは2017年にはじまるポリエステル製セットアップの製作プロジェクトだった。

「当時から“回収してリサイクルする”というサーキュラーエコノミーの発想がありました。以来、新しい技術やその可能性などについて情報交換させていただいています」

『WEAR SHiFT』では回収された衣料のなかで、ポリエステル製のものを抽出し、マグカップなどに姿を変えて再商品化される活動に協力いただいている。

「この先も青山商事さんとは『WEAR SHiFT』をはじめとした資源活用について調査・研究を図る予定でいます。2024年秋の店頭展開に向かって、エコログ・ループを前提としたコートの製造にも動いています」

こう力強く語ってくれた和田社長に、今後の同社の展望とファッション業界全体の見通しを伺った。

サーキュラーエコノミーの実現を目指して

現在、エコログ・リサイクリング・ジャパンでマテリアルリサイクルにより再資源としてペレット化できるポリエステルはおよそ1トン。年間に換算すると200トンの製造キャパシティをもつそうだ。その生産キャパシティの大小に関しては「国内で最大規模」とのこと。

「サーキュラーエコノミーはすでに社会普及段階に入ったと思います。当然競合他社の参入も考えられますが、これだけの施設規模を作ろうとするとそれなりの投資額となります。我々はすでに30年近い研究投資の上でこの事業を展開しています。先代の並々ならぬ決意と先見の明のおかげです」

リサイクルはもはや見返りを期待したコストから、前提条件へと変化したと和田社長は見る。先代の夢はしっかりと引き継がれているようだ。

エコログ・リサイクリング・ジャパン

エコログ・リサイクリング・ネットワークは調達から全てのラインをカバーすることでサーキュラーエコノミーを実現するサービスを展開しています。資源の回収や再利用を前提とした循環型の経済システムで持続可能な社会を目指しています。

構成・文:前田陽一郎 写真:若林邦治

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