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2024.04.01

“もったいない”という発想から技術を磨く繊維のプロフェッショナル

“もったいない”という発想から技術を磨く繊維のプロフェッショナル
青山商事のサステナブルな取り組み、ビジネスウェアの多様化への対応などを、社内のさまざまな立場の人に尋ねてきた「青山商事のサステナブル」。今回は青山商事の服作りにとって重要な役割を果たしていただいている協力会社さんの目線から掘り下げる。訪問したのは“LIFE with EARTH”をステートメントに、着る人にも地球にも優しい衣料づくりに取り組む繊維専門商社の瀧定名古屋株式会社。『WEAR SHiFT』プロジェクトとも関わりの深い同社が、青山商事とともに進めていこうとしている未来の服作りとは。

創業はなんと1864年。2024年には160周年を迎える瀧定名古屋株式会社。「青山商事さんも今年が60周年ですよね、縁を感じます」と話すのは瀧定名古屋 マーケティング戦略部 部長の山原 大(やまはら・ゆたか)さん。同じく紳士服地部の谷 英憲(たに・ひでのり)さん、マーケティング戦略部 青山商事向けプロジェクトチーム PT2リーダーの金田将二郎(かねだ・しょうじろう)さんとともに瀧定名古屋について、また青山商事との取り組みについて語っていただいた。

もったいない、という発想から生まれた「毛七」

古くは弥生時代から麻の織物を作っていたとされる、日本有数の毛織物の生産地である尾州(現在の愛知県一宮市周辺)。この地で明治初期から京呉服や関東呉服、地場織物を取り扱っていた瀧定助の「瀧定」を前身とするのが現在の瀧定名古屋だ。

瀧定名古屋の資料室には繊維産業にまつわる多くの資料や生地スワッチが保管されている。なかには100年以上前のものも

瀧定名古屋は、尾州地域における製糸から染め、織り、加工そして縫製までのすべての工程を行う事業者と強い繋がりがある。聞けば、尾州では50年以上前から毛七(けしち)と呼ばれるリサイクルウールの生地を作っていたのだという。

「毛七は、シンプルに“もったいない”という発想から生まれたものでした。ウールは原料費が高価だからリサイクルしよう、という考え方です。それが昨今のサステナブルという視点から再び注目を集め、弊社でも大量廃棄問題への答えとして毛七を再評価することになりました。“LIFE with EARTH 〜100年後も笑顔で〜”というスローガンを掲げてサステナブルな商材やサービスの提供にあらためてフォーカスし、『RE:NEWOOL』としてリブランディングに取り組みました」(山原さん)

かつては紳士服地部で生地の営業職として働き、いまはマーケティング戦略部の部長を務める山原大さん

リサイクルウールの可能性を伝える活動へ

2019年には“LIFE with EARTH 〜100年後も笑顔で〜”を掲げるウェブサイトを立ち上げ、地球環境に配慮し、生産と販売のイノベーションを進める姿勢を明確化。その取り組みの一つとして位置づけた『RE:NEWOOL』では、名古屋モード学園との産学連携プロジェクトも実施。リサイクルウールを使った洋服でランウェイショーを行い、広い層に再生ウールである『RE:NEWOOL』の可能性を伝えた。同時に、長年の取引がある青山商事とも、2020年頃から繊維から繊維への水平リサイクルをやるべきだと会話をしていたという。

瀧定名古屋本社エントランスロビーには名古屋モード学園との連携プロジェクトの際のファッションとショーの模様が展示されている

谷 英憲さん。紳士服地部は世界の繊維産地で生地を作り、アパレル関連企業に生地を販売している。糸の製造から完成品生地まですべてを取り仕切ることもあり、『WEAR SHiFT』では回収した古着の仕分けから紡績、製織、整理、仕上げまで全ての工程を担当。

金田将二郎さん。PT2 リーダーとして、瀧定名古屋の生地から製品一貫の提案、縫製を行う。青山商事との製品企画ではスーツのデザインの提案から製品づくりを担当している

「青山商事さんとは、以前からリサイクルウールの可能性については常に情報交換させていただいていました。状況が大きく動き出したのはここ数年ですね。社会機運とマーケットの要請も急速に高まってきたのを感じていました。青山商事さんは従来から古着の回収などリサイクル事業をされていたので、われわれもご一緒させていただきやすかったですね。『WEAR SHiFT』のプロジェクトが見えてきてからは一気にウール再生の取り組みが本格化しました」(山原さん)

瀧定名古屋の高い専門性をもった生地部隊、製品部隊、そして尾州の伝統的なリサイクルウールのノウハウをもった頼もしい協力会社。そこに市場を客観的に分析し、ときにお客様目線で製品クオリティのコントールを請け負うのが青山商事の役割だ。

できあがったシャリ感のある素材

やがてその取り組みは、2024年春夏シーズンに展開される『WEAR SHiFT』のスーツとして実を結ぶ。

その道程は平坦ではなかったとみな口を揃える。

たとえば糸の問題。店頭回収したウール100%のスーツから切り取った繊維は、毛の長さが一定ではないため、それを集めた糸は太く、伸びにくいという性質になるのだそう。糸が伸びにくければ、生地にしたときにも伸縮性は低くなり、太い糸で織った生地は当然厚くなってしまう。青山品質を満たす糸、生地になるまで改良を重ねた。

またシルエットや着用感に関わる部分では、伸びにくいリサイクルウールで着用感の良さを出すため、毛芯を一枚にするという工夫も行った。ただし、スーツの骨格でもある毛芯を省略しながら人体にしっかりと合うスーツの形を作るには高い縫製技術が必要となる。瀧定名古屋のネットワークをもってしてもそんな技術をもつドレスウェア専門の工場はひとつしかなかったという。ここでも青山品質を満たすまで、サンプルを作り、着用して仔細にチェックを行い、問題点を改善すべくパターン作りからやり直し、再びサンプルを作るという工程を何度も繰り返したそうだ。

そして出来上がったスーツは紡毛の特性をいかしたシャリ感のある夏らしい素材に。ハンガーにかかった状態でも見てとれる、肩から袖にかけての美しいオチ感は、丹念な青山品質追求の結果だ。

これが『WEAR SHiFT』としてのスーツの一部。写真からもシャリ感が伝わるようだ

『WEAR SHiFT』で使用されるリサイクルウール。これが元々はスーツだったと考えると「終わらない服」を実感する

先述の通り、2024年春夏シーズンから洋服の青山の店頭に並ぶ予定のこれらのアイテムは、まずはメンズで展開される。

『WEAR SHiFT』に留まらない未来への活動

瀧定名古屋と青山商事との関係は『WEAR SHiFT』だけのものではない。たとえば洋服の青山のヒット商品のひとつである『CONTROL α』。暑いときも寒いときも体感温度を快適なところに保つスーツだが、この生地は瀧定名古屋が取り扱う37.5®テクノロジーの生地を採用している。

「37.5®テクノロジーはアメリカの特許技術ですが、この技術を使ったドレス商品をいち早く採用いただいたのが青山商事さんでした」(山原さん)

長きにわたる両社の協力関係と信頼関係から、青山商事の現在の課題や、青山商事のお客さまのニーズは常に共有されているという。繊維の総合商社である瀧定名古屋は、膨大かつ最新の情報を取捨選択し青山商事へと提案する。その際、青山商事の課題やニーズが共有されていることから、提案精度が高く、迅速な商品企画へと繋がっているのだという。

「『CONTROL α』だけでなく青山商事さんにはいくつものアイテムで弊社の生地を使っていただいています。青山商事さんがすごいのは、全国の店舗が商品プレゼンテーションの場になるということですね。お客さまに時間をかけて新製品を理解いただくことができますから。しかも息の長い商品がメインですから、お客さまには着ないとわからない製品の良さを自然に理解していただけます。結果、それらは次のシーズンも、また次のシーズンも店頭に並ぶことになり、回り回って弊社としても毎年発注をいただくことで安定したビジネスにつながります。このビジネスモデルが確立されている青山商事さんは、サプライヤーである弊社にとって非常にありがたい存在なんです」(山原さん)

快適性の高い『CONROL α』やイージーメンテナンスの『URBAN SETTER』といった機能素材を採用したアイテムがいかにお客さまの生活に役立つものであるか。お客さまにとってのメリットを、理解していただけるまで伝え続ける青山商事の姿勢は、走り始めたばかりの『WEAR SHiFT』でも同様だ。

「繊維から繊維のリサイクルという取り組みに、青山商事さんが動いてくれたことはものすごく大きな意味のあることなんです。というのも、たくさんの衣類を回収し、たくさんの製品を販売するという、これだけの規模がないとこのビジネスは循環しないからです。この循環が続けば技術はさらに高まり、消費者が求める服をもっと作っていくことができる。弊社も青山商事さんと併走させていただきながら、100年後も人々がファッションを通じて笑顔でいられる未来づくりに貢献していきたいと思っています」(山原さん)

名古屋モード学園との取り組み同様に、瀧定名古屋本社各部門のフロアに設置されたリサイクルボックス

瀧定名古屋株式会社

瀧定名古屋は150年以上の歴史を持つ繊維専門商社で、テキスタイル・アパレル製品を扱います。大手メーカーや流通業に対し、素材開発・生産管理・調達機能を提供し、グローバルに適地・適品のものづくりを支援。スピード力のある対応で皆様のご要望にお応えします。

構成:前田陽一郎 文:青山鼓 写真:高柳健

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