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2024.03.25

高い技術をもつ協力会社さんとともに、点から面に

高い技術をもつ協力会社さんとともに、点から面に
働き方が多様化し、生活者の価値観にも大きな変化が訪れている。そんな時代を反映して、スーツにも様々な変化が現れている。今回はメンズ商品に関わる、商品部メンズ重衣料企画グループ長の高橋拓也さんにお話を伺い、スーツの多様化に対する青山商事の向き合い方を尋ねた。これから求められるスーツはどのようなスーツなのか。常日頃から親交のある協力会社さんを訪問しながら、これからの青山商事、変貌を遂げるスーツマーケットへの挑戦について伺った。

青山商事を志望した動機は「幼少期に見た父親のスーツ姿でした」と高橋さん。父親が朝、スーツに着替えネクタイを締めて身だしなみを整える姿に、大人の格好良さを見ていたのだという。

やがて服飾の専門学校へ進んだのちも働く男性のスーツへの思いは変わらず、「働くなら一番大きい会社がいい」と、青山商事を選んだ。規模の大きな会社でいつか自分も衣服やビジネスの変化に貢献したい、そんな気持ちを抱いていたという。

入社したのは2005年。店舗スタッフからキャリアをスタートして店長や新業態の立ち上げで店舗マネージャーを務めたのちに、現在所属の商品部へ。スーツ、ジャケットやスラックスといったアイテムの生産やバイイングを担当し、現在はフォーマルウェアを管轄しているという。

同時に高橋さんの重要な仕事は、商品部から発信する企画や、部内の各担当が進めているアイテムの取りまとめを行い、一つの訴求に固めて調整していくグループ長としての務め。青山商事がマーケットに対して何を、どのように、いつ届けていくのかをコントロールする重要な役割だ。高橋さんは、スーツマーケットのこれまでと現在をどのように分析しているのだろうか。

仕事で着るスーツにもあらわれた多様化

「もともとテーラードのスーツが当たり前に売れていたのは、それが働く人にとってのユニフォームだったからです。ところがほんの数年で、急速に個性が重視されるような社会変革が進み、スーツが一律のユニフォームではなくなった。さらに、スーツそのものも多様化し、もはやかつての構築的なスーツのような、いわゆるスタンダードなスーツだけではお客様のニーズに応えられなくなっています」

撮影は創業160周年を誇る備州の生地商社の瀧定名古屋株式会社さん。「たくさんのことを教えていただき、また無理を聞いていただいています」と、高橋さん

作りの柔らかいカジュアルなジャケットとパンツのセットアップは、同時にリーズナブルなものを求める市場に受け入れられて一気に広まった。その一方で、従来のテーラードスーツに個性を見出して楽しむお客様も当然いて、マーケットはますます多様化していると高橋さんは分析する。

「それでも仕事のための服が必要なことは変わリませんし、スーツが仕事着としての基本であることも変わらないと思います。ただ、ビジネスウェアという概念がかつてのスタンダードなスーツだけを指すものではなくなったということだと考えています」

新しいスーツ需要に対応するための柔軟な発想

スーツが多様化するにつれ、情報収集の範囲も変わりつつある。カジュアルウェアの動向を見ておくことはもちろん、スポーツにおけるアスリートのウェアまでも視野に入れ、それらがどんな生地でどんな機能をもっているのかにもアンテナを張るようにしているそう。

「たとえば2020年に販売を開始した『アーバンセッター』はポリエステルのスーツですが、これは自宅の洗濯機で丸洗いできるイージーケアを売りにしたアイテムです。そもそも“スーツはクリーニングに出すもの”という発想に疑問をもったことと、共働き世帯の増加でクリーニングに出す時間がないというマーケットニーズに応えたものでした」

同様の発想をさらに進化させたのが、『ゼロプレッシャースーツ』だ。2023年春夏シーズンでは、猛暑に対応する接触冷感機能を追加して進化させた。物価上昇という社会情勢を踏まえて1万円以下という大胆な価格設定を行い、『アーバンセッター』同様に自宅で丸洗いができることも評価されたとみている。高橋さんはともに近年のヒット作であるこの2つのシリーズを例にあげ、社会の変化、生活の変化にしっかりと目を向けながらアイテム開発をしていくことが重要だという。

協力会社との繋がりで完成した『WEAR SHiFT』のスーツ

新商品を意欲的に開発していく一方で、それらがもたらす環境負荷に目を向け、いかに軽減させるかということも重要になっている。

「もともと弊社は、完全買取というバイイングの形式をとっています。そして買ったものは完全に売り切るという販売手法です。それは廃棄物を一切出さないという弊社の精神に基づきます。あまりアナウンスされていませんが、スーツの裏地に多用されるポリエステルにリサイクル素材を使用することにより、年間で300トン以上のCO2削減につながります。そしてスーツを回収して新しいスーツにするという『WEAR SHiFT』は、従来の環境活動への取り組みをさらにブラッシュアップしたものだと考えています」

実は高橋さんは繊維商社を通じてウールの再生技術を青山商事に持ち込んだひとりだ。

「再生ウールをスーツ生地が織れるほどの細くて長い糸に撚り直すのは本当に難しいんです。しかも天然ウールは繊維の長さが揃っていますが、再生ウールはさまざまな服から繊維を取り出すために、繊維の長さが均等ではありません。これを撚って糸にすることが難関だったがゆえに、現物を見せてもらったときには感動しましたね」

『WEAR SHiFT』の根幹となる、スーツの回収と仕分け、分解をおこなっている株式会社サンリードさん。回収したスーツをこのように一枚一枚手作業で再生使用できるものと廃棄せざるを得ない部位とに分別していく。偶然見つけた『HILTON』のスーツはこれからまた、新たなスーツとして蘇る

スーツを分解して使える布を切り出し、そして再び原料にしたウールの束。これを加工し、引き伸ばして糸にする技術をもつ株式会社大和紡績さんも訪ねた。

再生ウールによる生地を用いた『WEAR SHiFT』のスーツが、2024年3月末から4月には店頭に並ぶ。

「コートとマフラーからはじまった『WEAR SHiFT』に、ついにスーツが加わりました。まだ弊社から回収したスーツからではないものの、大きな一歩だと思います。メンズだけでなくレディースでも一部商品化され、さらに『SHITATE』でもオーダースーツの生地として『WEAR SHiFT』の生地がご利用いただけるようになります。これまで高い技術をもった協力会社さんたちと点と点でやってきたことがようやく線になり、面が見えてきた、そんな気分です」

今後求められるスーツとは?

業界のなかで一番大きな会社に入れば、世の中のビジネスウェアの進化に貢献できると考えて青山商事に入社した高橋さんは、着実にキャリアを積んできているように映る。そんな高橋さんが考えるこれから求められるスーツとは。

「テーラードスーツは青山商事がもっとも得意とし、自信のあるものですから、より高いクオリティを探求していくことに変わりはありません。一方で従来のスーツではないけれど仕事着としてシェアが拡大傾向にある、ジャケット&パンツや機能性スーツを、いかに進化させられるかにも取り組んでいかなくてはいけません。いずれにしても弊社が提供するものは常に、働くみなさんのモチベーションを上げるものでなくてはならないと思っています」

今後も、既存の考え方に縛られずにマーケットから学び、マーケットに提案を続けていきたいと語る高橋さん。小学生のご子息の夏休みの課題が「海洋プラスチック問題についての作品を作る」であることを見て、やがて子どもたちが大人になる頃には、生活の中でサステナブルな商品は当たり前のものとなり、自然に消費者に選ばれる世の中になっていくと強く感じたという。

「未来に向けて社会の価値観が変わっても受け入れられ続ける青山商事であるために、いま未来に向けて本気で取り組まなければいけない」そう力を込めて語る高橋さん。これからどのようなアイテムを送り出していくのか、楽しみだ。

2024年春から、ついに発売となる『WEAR SHiFT』のスーツを前に。「素晴らしい技術をもった協力会社さんと一緒にスーツの可能性を探る高橋さん

服を変える服 WEAR SHiFT

終わらない服をつくろう。AOYAMAは、下取りして終わりじゃなく、誰かに委ねて終わりでもなく、自分たちの目で最後まで見届けるリサイクルを始めます。

構成:前田陽一郎 文:青山鼓 写真:高柳健

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