青山商事だからできたものづくりで、未来をつくる
もともと洋服とものづくりが好きで、大学卒業後の1989年にアパレル関係の商社でキャリアをスタート。やがてメーカーでの勤務や縫製工場での営業職などを経て、2002年に青山商事に入社する。
「私が入社したのは、ちょうどプレミアムスーツのシリーズである『Savile Row』がスタートしたタイミングで、百貨店クラスの良いものをリーズナブルに提供するという目標を掲げていたときでした。同時にロードサイド店舗の出店も増えていた時期で、新たな生産体制を必要としている時期でもありました」
当時は国内縫製から中国生産へとシフトしていた時代。商社時代に海外でのものづくりを経験していた山本本部長は、青山商事にも営業として出向いたことがあったという。
「青山商事は品質に厳しいという印象がありました。安かろう悪かろうではなく、高い品質を追求していましたね。同時に印象的だったのは、当時からトレーサビリティの取り組みをしっかり行っていたことです。各工場のどのラインで作られたのかまでを把握し、生地の選定も直接メーカーに出向いて自分たちが求める品質をしっかり伝えるということをやっていましたね。決して商社任せにはしていませんでした」
とはいえ、青山商事の高い理想を実現しながら、当時の約200万着という販売数を支えるだけの生産背景を整えることは並大抵のことではなかった。
「青山商事に入社してまず取り組んだのは安定した仕入れを行うことでした。200万着もの高品質なスーツを生産するには、綿密な計画がすべてです。縫製工場には“これくらいの時期にこれくらいの注文がある”というリズムと信頼をしっかり作り、ラインを確保する。その生産背景との確実な連携が私の役割でした」
“われわれの強み”を活かした仕組みづくりで成長に貢献
工場にとって、先々の生産ラインを青山商事のために確保しておくことは、他メーカーからの仕事を入れないことにほかならない。そして、キャンセルが多いメーカーや、生産数が直前で変更になるメーカーは信頼がなくなる。ビジネスとして計画が立てられないからだ。
「われわれの強みが販売力であることを実感しましたね。高品質とリーズナブルな価格設定は、安定して発注できるという土台があるからこそできるんです。工場は同じリズムで仕事ができると品質に集中できる。継続して発注のあるメーカーが、品質面でなにを気にするのかというポイントが次第にわかってくるから改善しやすいんですよね。そういう仕事を協力会社にお渡しできるのはやっぱり量があるからです」
いまや全国に約700店舗を構える洋服の青山の成長期を、安定した商品の供給という面から支えた山本本部長。現在は商品本部長としてすべての店頭に並ぶアイテムを決裁する任に就き、売れる商品を開発し、届けていくという重責を担っている。
「自分のミッションとして意識しているのは2点です。ひとつは青山商事で昔から言われている“伝統と革新”という軸を守ること。もうひとつは販売数。協力会社のノウハウを含めて非常に貴重な財産です。伝統的なスーツがなくなることはないので、この価格・品質含め青山商事のポジションを維持しながら、時代にあわせたスーツのあり方を啓蒙し、提案していくことです」
「時代にあわせたスーツのあり方」には購入体験も含まれる。洋服の青山らしいオーダースーツとはどのようなものか、スタイルを模索しながら提案している。
もうひとつ山本本部長が挙げたポイントは「モノ消費からコト消費への適応」。より豊かなスーツ購入体験のためにオーダースーツを求めるお客さまが増えているのだという。すべてのお客さまがスーツを楽しく購入できるよう、革新を進めていきたいと山本本部長はいう。同時に、ウエアリングの変化を青山商事がリードしていくという意気込みで、商品を開発し提供していくことも重要だ、と語る。
『WEAR SHiFT』を単発で終わらせないために必要だった“売れる商品”
ただスーツを買うだけではなく、地球環境にも配慮するという点でウエアリングに新たな価値を付与する『WEAR SHiFT』。これも山本本部長にとっての重要なプロジェクトだ。回収されたスーツを活用しながら商品を開発するにあたって、山本本部長が重視したのは“売れる商品を作ること”。
「プロジェクトに関わった者は開発段階からすでに、いかに継続させるかを重視していました。商品開発を担う自分の立場としては、ただ作りましたでは終わらせないために、きちんとした販売の実績を作る必要がありました」
風合いが損なわれがちなリサイクルウールで、いかに良い生地を作ることができるのか。リサイクル技術の蓄積はあったものの、高品質な服を作ることに関しては、また新しい挑戦であったそう。実際プロジェクトがスタートしてからは、予想以上に手間がかかり、工場に多くの負担をかけたという。
「想定以上に苦労がありました。紡績してくれる工場や生地屋さんには大変な要求をさせていただく形になってしまいましたが、結果的には良いモノができあがり、この苦労を経験にして次も取り組んでいきたいとパートナーさんから言っていただけました。今後もっといろいろな形で進化させていきたいと考えてくださるメーカーさんとのつながりも強くなりました」
逆転の視点も持ちながら、常に最新技術にアンテナを張り続ける
『WEAR SHiFT』では、衣類の回収やリサイクルウールを取り扱うさまざまな関係会社から、エコテクノロジーを中心に多くの提案があったという。それらの提案に耳を傾け、新しい商品に活かしていくためのアンテナは常に張っているという。
「日常的なスーツづくりのなかでつねに私たちの要求は発信していますし、定期的に情報は入ってきます。最近目についたものとしては、サステナブルテクノロジーだとバナナの皮を使った繊維とか、タンパク質から生まれる繊維のお話とか。どれも興味深い技術ばかりです」
それらの新技術を取り入れるかどうかの判断基準は自社商品として持続可能であるか否か。「ビジネスウエアやビジネス雑貨として取り扱うことができれば当社で展開する意味が見えてきます」
「ちなみに、今年ヒットしたゼロプレッシャースーツの開発のきっかけは水着の素材なんですよ。だからすごく伸びるんです。いままではオーセンティックなスーツやシャツという視点から機能を開発してきましたが、スポーツという別領域をいかにビジネスウエアに活かすかということに注目しています」
大量生産からパーソナライズへの取り組み
商品を、いつ、どのようにお客さまに届けるのかということを常に考えている商品開発の立場から、オーダースーツについてはどのような考えがあるのだろうか。
「さきほど少しお話しましたが、お客さまがよりよい体験を求める消費傾向の変化にマッチしているのがオーダースーツです。オーダーは既製服よりも高価になるので、お客さまの期待値も高くなりますが、それに応えるサービスを提供するべきであるという使命感を持っています」
ポイントは、オーダースーツへの敷居を引き下げること。「オーダー専門店とはちょっと違う、洋服の青山らしいオーダーを目指したい」と山本本部長。ファッションに詳しくないお客さまでも簡単に選べるように選択肢を絞り込んだ提案を行い、注文にかかる時間を短くするなど、洋服の青山のお店は入りやすいと思っていただけるように、洋服の青山らしい姿を出していくことが重要だと話す。
カラダにフィットするだけでなく、生地はもちろん、ボタンや裏地といった付属まで自分で選べるオーダースーツだが、オーダースーツに取り組んでからのさまざまな事例を経て、スピーディーな対応ができるよう接客の方法を磨き上げてきた。
現在では、販売に携わるスタッフへの教育も進んだことで、全国にある約700の店舗でオーダーへの対応が可能になった。かつて大都市の店舗でしかできなかったオーダーへの対応が地方でもできるようになったことも、洋服の青山の進化といえる。
これからの青山商事の未来を見据えて
社会の変化を反映し、お客さまが求めるものを提供し続けることは変わらない青山商事の使命でもある。いま求められることはどのようなことだと山本本部長は考えているのだろうか。
「私がファッションに興味を持った若い頃、“ファッションは我慢”でした。かっこいい服を着るためなら多少窮屈でも我慢するという意識があったものですが、時代は変化していまのお客さまが求めるのは快適な服です。動きやすく、イージーケア。皺になりにくいからカバンの中にも入れておける。そんなお客さまが求めるものにフィットしたから、ゼロプレッシャースーツが評価されているのだと思っています」
スーツをもっと快適に、そんな変化を柔軟に受け入れながら、既成概念に縛られずにスポーツやコンフォートといった領域での新技術を取り入れる。オーダースーツは格式高いものというイメージから一度離れ、もっと簡単に、楽しめるオーダースーツ体験を作り上げる。山本本部長のこれまでの話に共通するのは、変化を受け入れ、むしろ好んで取り入れることによって未来を作り上げていこうとする姿勢だ。
「いままで築きあげてきた強みを守っていくこと、そして大きく変化させること、その両方を行っていくということです。大きく価値観が変わっていくなかで、ニーズを的確に捉えていくことはますます難しくなりますし、サイクルも早くなるでしょう。ですから今後は、好奇心があって、ものが好きで、販売が好きで、変化が好きな、チャレンジ精神を持った人たちと仕事をしながら青山を成長させていきたいですね」
オーダースーツならQuality Order SHITATE
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文:青山鼓 写真:高柳健 構成:前田陽一郎